学生の撮った写真から学んだ写真以外のこと

February 22, 2012

東京工芸大学芸術学部 卒業・大学院修了制作展に行って来た。はっきり言って縁もゆかりも無い大学の卒制展だが、Twitter上でチラホラ卒制展の話題があがっているのを見かけてふと行ってみようという気になった。これはスルーしてはいけないことのひとつだと思ったのだ(この辺りの話は前回のコラムを参照していただきたい)。

天気の良い日曜日。ちょうど午後から東京駅の近くに行く予定があったため、タイミング的にも良かった。滅多に降り立つことのない秋葉原の駅を降りると日曜日ならではの人出。その間を抜け会場へ辿り着いた。

会場に入ると写真をメインにした展示とメディアアートをメインにした展示に分かれていた。時間があまりなかったこともあり、先ずは写真の方をサラッと見た。サラッと見るつもりだった。しかしそうはいかなかった。

ディレクションの仕事をしている自分が言うのは本当に申し訳ないのだが、私は写真の芸術性について語る言葉を持ち合わせていない。仕事上の目的があって良い/悪いの判断することはできる。しかし作品としての写真の善し悪しを判断するときは全くと言っていいほど自信が持てない。唯一言えるのは好きか、嫌いか、そのどちらでもないかだ。そんな自分が会場に入ったとたん、いくつもの写真に目が釘付けになった。

もちろん、学生の作品ということもあって、青臭く感じてしまうものや、荒っぽいもの、そして気にも留まらないものもある。しかしかなりの数の作品の中で、かなりの割合で気になる作品があった。そのことに非常に驚いた。別に期待していなかった訳でもないが、期待していた訳でもない。ただ何となく訪れたら単純に「良いな」と思える作品がたくさんあったのだ。

そのときふと、自分はこれまでそれほど多くの写真を見ていないという事実に気がついた。それは同時に、自分が何故写真に対して語ることができないのか?それほど興味がないのか?...に気がついたということなのかもしれない。

話は少し変わるが、一流のミュージシャンは一流の音楽マニアである。一流の建築家は一流の建築マニアである。一流の写真家は一流の写真マニアである。一流の写真マニアになることが一流の写真家になることではないが、一流の写真家になるために一流の写真マニアになる必要はある。これは別に多くの写真家やその作品を知っているということだけではない。何かひとつでも、どこか一部でも、写真というジャンルの何かを極めていることが、一流であるということだとなのだ。それは前述したミュージシャンでも、建築家でも、どの業界のどの専門家にも言えることだ。

他を知らない方がオリジナリティ溢れるものが作れると思ってしまうことがある。若い人は特に。しかし、何も知らずに一流の芸術作品を作ることができたらそれは天才以外の何ものでもない。オリジナリティなどということを考えることもなく一流の芸術作品を生み出すだろう。しかし、天才ではない人間が他を知らず作品を作ったとしても結局は何かに似ていたり、凡庸な作品になってしまうだろう。だからこそ、マニアである必要があるのだ。

自分で何かを表現したいと思っている人はたくさんいる。何かを表現したいけれどもどう表現して良いかわからない人も、たくさんいると思う。そんな人にひと言だけ言いたい。表現をしたいということは、他人に何かを届けたいということだ。そのためには、表現をする媒体のマニアになる必要がある。今、自分が人に届けたいと思っていることをどう表現したら良いかわからなければ、自分の一番興味があって、自分の一番好きなことを表現の媒体として選ぶべきだろう。当たり前だが嫌いなことや興味のないことを突き詰めるほどつまらないものはない。好きなことであればマニアになることは可能だ。

写真の展示を見たあとにメディアアートの展示も見させていただいたが、こちらも荒削りなものから頭でっかちなもの、そして引き込まれるほどアイデアに溢れたものが入り交じっていてとても楽しい展示を見ることができた。

次の予定先に移動する間、これまで書いて来たようなことを考えていた。作品を制作した学生たちは、ある種全員マニアなんだろうなと感じた。だからこそ特に何も考えずに見に来た自分の心が動かされたのだ。ただ、学生だからこそマニアになれたとも言える。彼ら、彼女らはこれから社会に出て、仕事や人間関係に揉まれることもあるだろう。自分の好きなことを追求する時間もなくなってしまうかもしれない。しかし、これだけの表現をできたことは自信に繋がると思う。世間に揉まれながらも、好きなことを追求し続けて欲しいと思う。

最後になったが、今回はとても良い機会を与えていただいたことに感謝したい。

先生からは以上です。

Author: Shin Takeda
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