暗闇の中の対話

May 18, 2009

友人K氏からお誘いをいただき、前々から気になっていたイベント“ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下DID)”に参加してきました。このイベントを体験した1人として、感想を述べないと気が済まない、というか、自分の中で「このイベントは何だったのか?」ということを整理したい思いが多分にあるので、ネタバレにならない程度にまとめてみようと思います。結論は大絶賛なので、是非参加していただくことを望みますが、その際の“楽しみ方のヒント”になれば嬉しく思います。

この日はK夫妻と私、3人でイベントに足を運びました。イベントは完全予約制なので事前予約が必要です。今回K氏の計らいにより、3人とも違うグループでコースをまわれるよう、時間をずらして予約がされています。“同じ日で違うグループ”。先ずここがポイントです。参加者およそ8人+アテンド(視覚障害者)という少ない人数のグループの中で、徹底的に“非日常”を体感するためには、グループ内に知り合いはいない方が良いでしょう。でもイベントが終わったあと、スグにいろんなことを共有したくなるから、会場には知り合いがいた方が良いでしょう。

受付を済ませ、荷物をロッカーに預けて身軽になったあと、係の方から説明を受けます。ひとり一人、自分に合ったサイズの白杖を選び、一段暗い部屋へ。少しずつ緊張感が高まります。そこでアテンドさんが紹介され、8名の参加者もそれぞれ自己紹介。「ではひとり一人、名前とニックネームを教えてください」。「ニックネーム?!」そこにいた全員が「??」となりました。「中に入ったらニックネームで呼び合ってください」とのこと。一同苦笑い(薄暗かったけどみんなそんな感じだったと思います)。仕方がないから私は「下の名前がシンというのでシンと呼んでください」と自己紹介をしてまた苦笑い。でもここ、大切。全く知らない人からいきなりニックネームで呼ばれる経験ってないでしょ?DIDを経験をすると、コミュニケーションの中で、ニックネームって非常に大切なものだなーと実感すると思います。みんな私のことを「シンさん」って呼んでくれました(笑)。

中で体験する数々のことは、ここでは多くを語りませんが、なんてことはない、ただ落ち葉をつかんだり、水に触れたり、縁側に座ったり、そこから家の中に入ったり。たぶん恐らく、誰もが経験をしたことがあることです。ただ一つ、それらを経験をする場所は暗闇だというだけ。私も事前情報として、これくらいのことしか知りませんでしたが、ひとつだけ心がけたことがありました。それは“目を開けていよう”と思ったこと。“目を閉じて”暗闇を経験することは可能ですが、健常者であれば、“目を開けた状態のまま”暗闇を経験することは、通常不可能なことだからです。イベントを120%楽しんでやろうという貧乏根性と言われるかもしれませんが...。

自分的に、面白いなーと思った些細な経験を少しだけご紹介。

  1. ずっと目を開けていようと思ったにも関わらず、手で触れたものが何なのかを考える時、無意識に目を閉じていました(...閉じても開いても同じなのに)。
  2. 中でみんなが座って話をする場面があるのですが、ひとり一人名前を呼ばれるシチュエーションで返事をするとき、無意識のうちに手を挙げていました(...誰にも見えないのに)。
  3. 白杖を持っていたにも関わらず、頼りにしていたのは周りの人の声と、前を歩く人の背中だけでした(...使うことすら忘れてた)。

これ以外にももちろん、たくさんの体験をして、多くのことを考えました。普段街を歩いていて、視覚障害者の方を見かけたとき、少し心配にな気持ちにならないでしょうか?私はなります。頼り無さげに見えます。でもなんと!このイベントで一番頼りになるのは視覚障害者のアテンドさんなのです。自分の認識が180度変わるなんて経験、そうそう出来るものではありません。多くのことを経験して、多くのことを感じて、多くのことを学んだ気がします。1日経った今でも、まだ心の整理が出来ないほどの体験をしたと思います。許されるならばあと1〜2時間その場所に居たいと思いました。それくらい心地良かったことも確かです。

このイベントが常設イベントになるよう、これから全力で人に薦めようと思っています。もしかしたら会期中にもう一度くらい行くかもしれません。行けば行くほど、自分の中で何かが変わる?もしくは芽生えるような気さえします。何なんでしょう、この感じ。唯一無二としか言いようの無い、そんなイベントを体験してしまいました。

Author: Shin Takeda
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